第393号:噛み合わせ。

件名 :第393号:噛み合わせ。

お客様は、ご自身が先頭に立って走られるか、周囲の状況を見て調整をなさるか、
どちらのお立場が多くございますでしょうか?

お仕事や日々の暮らしの中で、私たちが求められる役割は様々で、引っ張るのが得意な方、
細やかな気配りで、全体のバランスを整えるのがお上手な方もいらっしゃいます。
どちらかの役割が優れているというわけではなく、それぞれ持って生まれた気質や経験による、
適性のようなものがあると考えます。
若い頃は自分一人、突っ走ることが多くございましたが、すこし落ち着いて、
物事や人間関係の「馴染み」や「噛み合わせ」の大事さがわかってきた
修理工房の近藤より今夜のお便りを差し上げます。

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■本日は、お時計の要である「歯車」の歴史について、お話しをいたします。

機械式のお時計の内部には、大小さまざまな「歯車」が存在します。
現代では、歯車といえば金属製が当たり前ですが、機械式時計が誕生したと言われる13世紀の頃には、
「木」で作られるのが普通であったそうです。
中世ヨーロッパの初期の時計や、日本の江戸時代に作られた「和時計」の多くは木製で、
素材には「ツゲ」や「カシ」のような、比較的硬く、摩擦に強い木材が選ばれておりました。
しかし木材は、雨の日には湿気を吸って膨らみ、噛み合わせがキツくなることで止まってしまい、
逆に晴れて乾燥すれば、隙間ができて空回する現象が発生するため、当時の時計師たちを悩ませました。
梅雨の時期に、ドアの建て付けが悪くなる現象に似ており、
「生きている素材」との対話が、当時の時計修理や精度調整のすべてだったと言われております。
その後、産業革命を経て金属加工の精度が飛躍的に向上したことで、
歯車は真鍮(しんちゅう)や、鋼鉄(はがね)へと置き換わってまいりました。
金属製になったことで、木製では不可能だった「小型化」が実現し、重たい壁掛け時計から懐中時計、
そして現代の腕時計へと進化を遂げました。
しかし、金属になったことで解決した問題もあれば、金属同士が擦れ合うことで起きる摩耗など、
新たな課題も出てまいります。

この摩耗を防ぐために、前回のメールマガジンでお話ししました、潤滑油(グリス)の管理や、
軸受にルビー(宝石)を組み込むといった工夫が、現代の精密なムーブメントの設計に繋がっております。
何百年も前から、素材は木から金属へと変わっても、「滑らかに、過不足なく力を伝えるか」、
という噛み合わせの追求は、技術者が今も顕微鏡を覗きながら追求している、時計修理の本質でございます。
もしお手元のお時計で、針の動きに違和感がある、あるいは時刻修正の際のリューズの感触が重い、
といった変化を感じられましたら、歯車の噛み合わせが悪くなっているサインかもしれません。
不具合は小さいうちの方が修理しやすく、コストもかかりませんので異変を感じましたら、
我慢をせず、ご相談くださいますようお願いいたします。
以上でございます。
最後までご覧くださり、誠にありがとうございました。

【近藤のひとこと】
英語で「歯車」を指す「Gear(ギア)」という言葉は、
その語源を辿ると、「準備する」「装備する」という意味に由来するそうです。
単純に回すための部品というだけでなく、「次の動作のために、備えをする」、
というニュアンスが含まれているのはとても興味深いです。
日本語の「歯車」も、見た目そのものを表す直感的な名称で好きですが、
一分一秒を刻むための「備え」という表現もまた素敵でございますね。

▼国内新品のお時計を2割引で販売する取り組み。
※この試みは、いったん4月中に区切りまして、今後は「修理のご相談、ご依頼時」などに
機会をいただきたいと存じます。近日中に、改めてご報告させていただきます。


これまでお納めさせていただいたお時計は以下の通りでございます。
・IWC[IWC358312]http://bit.ly/4apw6Qp(Google検索)
・パネライ[PAM01087]https://bit.ly/4rhphGw(Google検索)
・SEIKO[SDKV007]https://bit.ly/4kxm3fv(Google検索)

▼弊社の無料郵送パックの申し込みは、以下のURLより承ります。

▼過去のメールマガジンはこちらでご覧いただけます。


精密に噛み合い、正しく時間を表す時計の「歯車」ですが、
厳密に申し上げますと、わずかな「隙間」、あるいは「余裕」を持たせています。
私たちの日々も、隙間なく詰め込んだり、積み重ねたりするより、
ほんの少しの「あがき」を持たせたほうが、滑らかに対応できるかもしれません。
わずかな浮き、離れ、それが上手くいく要素であることは、
長く生きるほど分かる、人生のコツのようなものだと思いました。
ほんのわずかの「隙間」を作れるということは、終わりと始まりが見えているということ。
私たち修理工房も、成り行きではない仕事をして、お客様に喜ばれるように努めてまいります。

時計修理工房 近藤

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