第368号:腕時計の耐震装置。

件名 :第368号:腕時計の耐震装置。

お客様、身の回りにある「バネ」として、すぐ思いつくものはございますか?

いまお客様が思い描いていらっしゃるバネ(スプリング)は、日常生活の至る所にございまして、
力を貯めたり、衝撃を吸収したり、元の形に戻る性質などが利用されています。
例えば、ボールペンの芯を出したり戻したりする部分や、洗濯バサミ、クリップやホッチキスも一例で、
ソファやマットレスのスプリング、腕時計の原動力であるゼンマイも該当するかと存じます。
バネはひとの「押す、引く、支える、戻す」といった動作に貢献するとしても過言ではないと思います。

この冒頭の文章も、本題に繋げるための、バネ(クッション)のように利用している、修理工房の近藤です。
いつもメルマガをご覧くださり、誠にありがとうございます。
お便りを丁寧に直していたら夜になってしまったので、日を改めました。

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■本日は、お時計の耐震装置(バネ)についてお話しをさせていただきます。
耐震装置とは、振り子の役割を担うテンプの軸が衝撃などで、折れたり、曲がったりするのを防ぐ部品です。
機械式時計においては、精度や耐久性を左右する重要なパーツでございます。
お時計は腕に身につけられますから、当然、振動や衝撃を受け続けています。
もし耐震装置がなければ、テンプの軸は繊細であるため、僅かな衝撃で簡単に折れてしまいます。
振り子は機械式時計の心臓部にあたるため、破損しますと、
動作に誤差が発生したり、停止するなどの不具合が現れます。
このような弱点を克服するために開発されたのが、
冒頭から話題にしているバネを用いた「耐震装置」でございます。

耐震装置は主に、「耐震ブロック、受け石座、穴石、受石、バネ」と5つの部品で構成されます。
普段は正しい位置に位置が押さえつけられて、軸を支えていますが、時計に衝撃が加わりますと、
石全体が僅かに動き、バネがその力を吸収します。
衝撃が収まると、バネの弾力で石が元の位置に戻り、正常な動きを維持されるという仕組みでございます。
これにより、日常生活の範囲で起こる、軽い落下や振動、衝撃などから、テンプを守るっています。
穴石、受石は、人工ルビーで製作されており、比較的に摩耗や衝撃に強いのが特徴で、
お時計のカタログなどに記載されることがある、「17石」、「17jewel」はこの石の数を指します。
一概には申せませんが、この石の数が多いほど、複雑で高級な機械になることが多いです。

耐震装置にはいくつかの方式があり、「インカブロック」「キフ」「ダイアショック」が代表的です。
スイスで開発されたインカブロックは、楽器のハープのような形のバネが特徴で、
衝撃を上下左右にバランスよく逃します。
構造がシンプルで整備もしやすく、現在でも最も多く採用されています。
同じくスイス製のキフは、星型や、三葉形のバネを用いて、軸の位置再現性を高めた高級機構です。
ロレックスが採用しており、より精密な動きの補正を実現します。
ダイアショックは日本のセイコーが開発した方式で、高温多湿な環境でも安定して動くように設計され、
国産時計の信頼性を支える技術でございます。

耐震装置は、ほとんど見えない部分にありますが、その小さな構造こそが、お時計の寿命と精度を支えています。
現在の腕時計では、この装置は標準装備とされ、さらに近年ではシリコン素材の導入などで、
さらに衝撃などを受けにくい機構が開発されています。
見た目にはわからないその小さなバネと宝石(人口ルビー)の動きが、何年も変わらず時を刻む信頼の源です。
強い衝撃を受けたお時計は、テンプの軸が折れていたり、
バネや穴石が割れているほか、脱落していることもございます。
耐震装置も限界がございますので、お時計をご使用の際はなるべく衝撃が加わらないようにご注意ください。
弊社は、耐震装置や、テンプの修理も承ることが可能でございますので、お困りの際はお声がけください。
以上でございます。
最後までご覧くださり、誠にありがとうございました。


【近藤のひとこと】
先ほど申し上げました、「17石」、「17jewel」は、お時計の構造や、使用により異なり、
手巻きのお時計であれば、17石前後で、自動巻きとなりますと、25石前後と少し増えます。
日付、曜日の表示機能がつきますと、30石前後になり、クロノグラフ付きは40石以上、
ハイコンプリケーションなどの高級ムーブメントは、80石を超える場合もございます。
いっぽうで、非常に廉価な手巻きのお時計でも、15石前後は使用されております。
石数が多いと高級そうに見えますが、必ずしも精度が良くなるわけではなく、
不要な箇所に石を追加した、ダミーストーンも存在します。
そのため、石数よりもムーブメントの設計品質や調整精度の方が、実際の性能に影響いたします。


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お客様、腕時計の宝石が見えない場所で軸を守るように、
人間の中にも見えない場所で、心を支えるような力があると思います。
それを優しさや、思いやりと呼ぶこともあると思いますが、大人になってから、
何となくそれは過去に経験したこと、傷付き、悲しんだ経験も役立つと知りました。
傷つくほど優しくなれるというのは本当っぽいと思いますが、お客様は如何でしょう?
ルビーを傾けたように季節が移ります。指先の宝石を落としてしまわないように、
ご自身の心、身体の調子を労わってください。そのお心こそが人生の耐震装置でございます。


時計修理工房 近藤

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